建物明け渡し請求コラム
家賃滞納と時効
1 滞納家賃の回収
不動産オーナーの皆様は,数か月以上の家賃滞納が発生した場合は家賃未払いを原因として賃貸借契約を解除し,賃借人に物件の明渡請求をするとともに未払賃料の支払を求めるのが通常です。
しかし,賃借人が滞納家賃を払わずに物件から出て行った場合,そのまま滞納家賃の回収が面倒になって後回しにしてしまう方もいるでしょう。
ただ,このように未払賃料を放置していると,賃料債権が消滅時効にかかってしまって回収できなくなる可能性もありますので,注意が必要です。
2 賃料債権の消滅時効期間
賃料債権の消滅時効期間は5年間です。
通常の債権の消滅時効期間は10年間ですが(民法第167条第1項),債権の種類によってはそれより短い消滅時効期間が定められています。
民法169条は「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は,五年間行使しないときは,消滅する」と定めているところ,賃料は通常毎月定期的に支払うものですので,この条文が適用されます。
3 時効の完成を防ぐためには
(1)未払賃料の一部弁済は古いものに充当
消滅時効は各々の賃料支払日から進行しますので,古いものから順次消滅時効にかかっていくことになります。そのため,賃貸人としては,受取った賃料が一番古い賃料に充当されると,未払賃料が時効にかかりにくくなります。賃借人が何月分と指定せずに滞納家賃の一部を払ってきた場合,受取るときに賃貸人側でいつの分の賃料に充てるか指定することができますが(民法第488条第2項),その指定をしなかったときは一番古い未払賃料に充てられることになります(民法第489条第3号)。
(2)時効の中断
時効の中断事由があれば,そこで時効の進行がとまり,また一から時効期間が進行します(民法第147条)。賃借人に対して未払賃料の支払を求める裁判上の請求をしたり,賃借人が未払賃料のあることを承認すれば,その時点から改めて消滅時効期間が進行することになります。裁判上の請求でなくとも,消滅時効完成前に支払の催告をした場合は,6か月以内に裁判上の請求をすれば5年が過ぎていても時効中断の効果が生じます(民法第153条)。そのため,時効完成までにあまり猶予がない場合は,内容証明郵便等で支払いの催告をして提訴期限を延ばし,催告から6か月以内に裁判上の請求等をすることで時効の完成を防ぐことができます。
4 民法改正の影響
2020年4月1日より改正民法が施行されますが,改正民法では消滅時効制度に変更がありました。改正前民法169条の規定は削除され,賃料債権についても通常の債権と同様の消滅時効期間が適用されることになります。
通常の債権の消滅時効期間については,「権利を行使することができることを知った時から五年間」又は「権利を行使することができる時から十年間」で消滅時効にかかるように改正されました(改正民法第166条第1項)。
賃貸借契約では家賃の支払日が定められ,支払日が来れば賃貸人は賃料支払請求権を行使することができると知っているのが通常ですから,賃料債権の消滅時効期間は通常は支払日から5年間ということになります。
このように,改正民法では適用される条文が改正前と異なりますが,通常は消滅時効期間が5年間であることには変わりありません。