建物明け渡し請求コラム
家賃滞納を原因としない建物明渡しについて
1 代表的な建物明渡請求
建物のオーナーの方は,様々な事情で建物に住んでいる者に対して建物明渡しを求めざるを得ない場合があると思います。例えば,賃借人が家賃を長期間滞納した場合などがその典型例です。
もちろん,家賃滞納以外の理由によっても建物明渡請求が出来る場合があります。建物明渡請求の根拠としては,大きく分けて賃貸借契約終了に基づく明渡請求と所有権に基づく明渡請求とに分けられます。契約関係にない者が不法に建物を占拠している場合は,建物の所有権に基づいて明渡請求をすることになりますが,賃貸借契約を締結していた賃借人に対して明渡請求をする場合,賃貸借契約の終了に基づいて明渡を請求することが多く,契約を終了させる原因は多岐にわたります。
2 契約解除を原因とする賃貸借契約の終了
家賃滞納のほかにも,以下のような事情がある場合には,賃貸借契約を解除して建物の明渡請求をすることができます。
(1)用法遵守義務違反
賃借人は,契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従って物件を使用収益する義務があります(民法第616条,第594条第1項)。契約上物件の使用方法が定められている場合はその使用方法に違反したか,契約上使用方法の定めがなくとも物件の性質から想定される使用方法に違反した場合は,用法遵守義務違反として賃貸借契約を解除できる場合があります。
ただし,義務違反があれば必ず解除できるというわけではなく,家賃滞納の場合と同様に信頼関係が破壊されたといえる事情が必要です。
裁判例では,賃貸物件で熱帯魚販売業以外を営んではならないとの定めがある賃貸借契約において,賃借人が賃貸物件内で電化製品の解体・修理などを行っていた事案について,熱帯魚販売業とは全く異なる用途に使用していると認定したうえ,解体・修理等のため深夜も含めて相当程度の音量の作業音を出し,賃貸物件の上階に住む賃貸人の家族に騒音被害が生じていることをもって信頼関係が破壊されていると判断し,賃貸借契約の解除を認めているものがあります(東京地判平成18年2月17日)。
(2)無断転貸・無断譲渡
賃借人は賃貸人の承諾を得なければ,第三者に物件を転貸したり,賃借権を譲渡することができません(民法第612条第1項)。これに違反して賃借人が賃貸人に無断で物件を転貸したり,賃借権を譲渡したりすれば,賃借人は賃貸借契約を解除することができます(同条第2項)。
この場合でも,無断転貸や賃借権の無断譲渡が賃貸人に対する背信的行為であると認めるに足りない特段の事情がある場合は解除が認められません。もっとも,この事情は解除を争う賃借人側が主張立証する必要があります。
(3)その他契約条項の違反
賃貸借契約の特約として定めた賃借人の義務がある場合に,その義務に違反したことをもって賃貸借契約を解除することも考えられます。ただし,その場合も基本的には賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたといえる事情が必要となります(どの程度の事情があれば信頼関係が破壊されたとして解除が可能なのかについては,その特約による義務がどのような性質のものなのかにより変わってくる可能性があります)。
例えば,ペット不可の特約のある賃貸借契約を締結していたところ,賃借人がペットを飼っていたことが発覚し,特約違反を原因として賃貸借契約を解除する場合が考えられます。
3 期間満了による賃貸借契約の終了
解除事由がない場合でも,賃貸借契約が期間満了により終了した場合は建物明渡請求をすることができます。
(1)普通建物賃貸借契約の場合
普通建物賃貸借契約の場合,期間満了の1年前から半年前までの間に契約を更新しない旨の通知をし,かつ,契約を更新しないことに正当事由があれば賃貸借契約を終了させることができます(借地借家法第26条第1項,同法第28条)。正当事由があるかどうかは,賃貸人と賃借人双方の建物使用の必要性や建物賃貸借契約に関する従前の経過,建物の利用状況,建物の現状,補充的に立退料の有無やその額を考慮して判断されます。なお,立退料は補充的な考慮要素ですので,賃貸人側で建物利用の必要性が乏しい場合にはいくら多額の立退料を払うと申し出ても正当事由は認められません。
賃貸人が賃貸物件に自ら住む必要があるとして賃借人と転借人に賃貸借契約の解約を申し入れ,相当の立退料を支払うと申し出た事案につき,賃貸人は他の物件も所有しているため本件の賃貸物件に住む必要性はそれほど大きくはなく,他方長期間生活することを前提に高額なリフォーム工事を行った転借人は物件使用の必要性が相当大きいとして,立退料の提供を条件にしたとしても正当事由を認めることはできないと判断した裁判例があります(東京地判平成26年4月18日)。
(2)定期建物賃貸借契約の場合
定期建物賃貸借契約の場合は,契約書で更新がない旨を定めていますので,期間の満了により契約は当然に終了します。ただし,賃貸期間が1年以上の場合は,期間満了の1年前から半年前までの間に賃借人に対し期間満了により賃貸借契約が終了する旨の通知をしなければ,契約を終了させることができません(借地借家法第38条第4項本文)。もっとも,この期間内に上記通知をしなくとも,改めて賃貸借契約終了の通知をし,その通知の日から6か月を経過すれば契約を終了させることが可能です(同項ただし書き)。
定期建物賃貸借契約の場合は,普通建物賃貸借契約と異なり,正当事由がなくとも契約を終了させることができます。
4 おわりに
上記のように,家賃滞納以外にも様々な原因によって建物の明渡請求をすることができます。もっとも,それぞれの原因に基づいて建物明渡請求をする際には,具体的に賃貸借契約の解除原因があるのか,更新拒絶の正当事由があるのか等を検討しなければなりません。建物明渡請求をしたいけれども法的に可能なのか,また具体的に手続をどう進めていくのか迷われた方は,お気軽に弁護士にご相談ください。