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建物明け渡し請求コラム

建物明渡しに関する和解条項で入れておきたい事項とは

【設例】

私は,6階建のビルを所有して日本語学校を経営していますが,1階から5階までは学校の教室と事務局のために使用していて,6階だけ,テナントとして貸金業者に貸しています。

 

近年,日本への外国人留学生が増えたことに伴って,私の学校でも入学者数が毎年増え続けています。現時点の留学生の応募状況によると,来年も,多くの入学者数が見込まれていて,このままでは定員を超えてしまいそうです。そうなれば,入学希望者の申込みを断らなければならず,学校にとって大きな損失となります。

 

そこで,私は,6階も教室にして学校の収容人数を増やすために,貸金業者との建物賃貸借契約を解除しようと考え,3か月前から貸金業者の社長と話し合ってきました。この貸金業者は,数年前から経営が傾いていて,賃料の滞納が続いていましたし,このビルの6階で営業を続ける必要性も乏しい状況でしたから,3か月後に200万円の立退料と引き換えに明け渡してもらえることになりました。

 

この話し合いの結果は,合意書の形で残した方が良いと思うのですが,どのようなことを和解条項として入れておけば良いのでしょうか。

 

 

 

【回答】建物の明渡しに関する合意内容として,ご相談者様としては,

 

① 建物賃貸借契約が合意解約される日付と明渡しの期限を定める条項,

② 明渡しの期限以後に賃貸フロアに残されていた動産については,賃借人の所有権が放棄される条項,

③ 放置された動産の処分に費用が掛かった場合には,これを賃借人の負担とすることを定める条項,

④ 明渡しが遅れた場合に賃貸人に発生する損害や,放置された動産を処分した場合の費用,約束したとおりに賃借人が賃貸フロアを元に戻さなかった場合に必要となった費用を,敷金から差し引くことができることを定める条項

 

などが,入れておきたい和解条項となります。

 

 

賃貸人と賃借人との間の話し合いによって,建物賃貸借契約を解約する合意が成立した場合には,一般的に,「合意書」などのタイトルで建物明渡しに係る和解契約を締結します。

 

設例では,ご相談者様は,賃借人の貸金業者が退去した後に,6階のフロアを教室として使用するための改装工事を実施したり,受け容れる留学生との入学手続きを進めていくことになるわけですから,合意された明渡し期日以後も,約束に反して貸金業者が居座り続けることは何としても避けなければなりません。

 

そこで,まずは①建物賃貸借契約が合意解約される日付と,建物明渡しの期限を定めます(一般的には,合意解約の日付と,建物明渡しの期限は,同日となります)。

 

 

 

(合意解約)※甲は賃貸人,乙は賃借人です。以下同様です。

甲及び乙は,本件建物賃貸借契約を,令和●年●月●日をもって合意解約する。

 

 

 

(明渡し)乙は,甲に対し,令和●年●月●日までに,本件賃貸物件を明け渡す。

 

 

もっとも,仮に明渡し条項に違反して,賃借人が賃貸物件内に居座った場合,賃貸人と賃借人との間で作成した合意書のみでは,強制的に賃借人を建物から退去させたり,荷物を撤去したりする強制執行という手続きを採ることができません。建物明渡請求訴訟という裁判によって,判決を得た後でなければ,強制執行ができないという問題があります。

 

そこで,明渡し条項の違反があった場合に,すぐに強制執行ができるようにする方法として,即決和解(訴え提起前の和解)という簡易裁判所での手続があります。即決和解の手続きでは,判決と同じ効力がある和解調書が作成されますので,賃借人が明渡し義務に違反した場合には,すぐに強制執行することができます。詳細は,建物明け渡し請求コラム「即決和解について」をご覧ください。

 

次に,賃借人が,明渡し期限までに退去したとしても,賃貸物件内に賃借人の所有物がそのまま放置されていたら,賃貸人は,原則としてこれを勝手に処分することはできません。賃借人の所有物には賃借人に所有権がありますから,これを壊したり,廃棄したりすれば,器物損壊罪(刑法261条)に問われる可能性がありますし,また,損害賠償責任(民法709条)を負わなければならなくなるかもしれません。

 

ですから,明渡し期限以降に,賃貸物件内に残された賃借人の動産(残置物といいます。)については,これを賃貸人が自由に処分できるように,賃借人がその所有権を放棄する条項が必要となります。

 

 

 

(残置物)甲及び乙は,令和●年●月●日以降,本件賃貸物件内に残置された動産の所有権を放棄し,甲はこれを自由に処分することができる。

 

 

一方,残置物の所有権を賃借人が放棄する条項を設けたとしても,この処分費用が掛かってしまったのでは,予期せぬ損害が発生しかねません。

 

そこで,賃借人が動産を放置して退去し,これを賃貸人が処分するために支出した費用については,賃借人の負担とする条項を併せて設けることも必要となります。

 

もっとも,賃借人の所有する動産について,賃借人がこの所有権を放棄する条項を設けた以上,その処分費用は,賃貸人の負担とする例も多く見受けられるところです。この点については,事案に応じた,当事者間の交渉次第ということになります。

 

 

(残置物の処分)乙が,その所有する動産を,令和●年●月●日までに,本件賃貸物件から撤去しなかった場合,これによって甲がその処分等により費用を支出し又は損害を被ったときは,乙は,甲に対し,直ちに,当該費用を支払い又は当該損害を賠償するものとする。

 

 

 

最後に,賃借人が建物を明け渡さずに,居座って営業を継続するなどといった事態を抑止するために,明渡しが遅れれば遅れるほど賃借人の損害賠償額が大きくなるように違約金を発生させる条項を設けることが有用です。そして,これに加えて,残置物の処分費用や,賃借人が原状回復義務を怠った場合に被る損害を併せて担保するために,これらの費用,損害等を敷金から差し引くことができる条項を設けます。

これによって,賃借人に対し,明渡し期限までに退去を完了させなければならないという強制力を働かせることができます。

 

 

(明渡しの遅延)乙が,第●条(明渡し条項)に違反して本件賃貸物件の明渡しを遅延した場合には,乙は,甲に対し,令和●年●月●日から本件賃貸物件の明渡しが完了する日までの期間について,本件賃貸物件の賃料相当額(日割り計算によるものとする。)の2倍により計算される遅延違約金を,直ちに支払うものとする。ただし,上記遅延により甲に生じた損害額が,同遅延違約金の金額を超えるときは,乙は甲に対し,当該超えた金額についても直ちに支払うものとする。

 

 

(敷金)1. 甲は,乙に対し,令和●年●月●日までに,本件賃貸物件の明渡しを受けるのと引き換えに,本件建物賃貸借契約に基づき乙が交付した敷金を,乙が指定する銀行口座に振り込む方法で返還するものとする。振込手数料は,甲の負担とする。

2. 前項に定める敷金の返還に際し,明渡しの遅延による遅延違約金が甲に発生した場合,残置物の処分に係る費用又は損害が甲に発生した場合,及び乙が原状回復義務を怠ったことによる損害が甲に発生した場合には,甲は,これらの費用,損害及び遅延違約金を前項に定める敷金から差し引き,残額がある場合にのみこれを返還すれば足りるものとする。

 

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