建物明け渡し請求コラム
賃借人が家賃滞納のまま死亡した場合には?
【設例】
私は,アパート経営を行っていますが,その一部屋の借主の家賃の滞納が続いたため,請求書を送付したり,何度も電話を掛けました。しかし,借主は部屋に現れず,連絡が取れない状況が続いていました。
同じアパートの別の部屋には,借主の会社の同僚も住んでいましたので,事情を聞いたところ,借主は数か月前に交通事故に遭って入院していたが,先日お亡くなりになったとのお話でした。
借主はお亡くなりになったということですから,建物賃貸借契約は解除されたものとして,部屋を片付け,新しい借主に貸してもよいのでしょうか。
【回答】
借主の方に相続人がいる場合には,相続人が借主の方を相続して建物賃貸借契約の賃借人の地位を引き継ぎ,建物賃貸借契約は解除されないことから,相続人の同意なく部屋を片付けることはできません。
また,借主の方に相続人がいない場合でも,ご相談者様は一定の裁判所の手続きを踏んで,建物の明渡しを行う必要があります。
相続人は,被相続人の一切の権利や義務を相続します。建物賃貸借契約の賃借人は,建物に居住するなどの権利を持っていますから,相続人は,この賃借人の権利を相続します。
設例では,借主の方に相続人がいる場合には,建物賃貸借契約の賃借人の地位は借主の方の相続人に引き継がれますので,建物賃貸借契約は借主の方の死亡によって解除されません。つまり,ご相談者様は,借主の方の相続人に部屋を貸し続ける義務がありますし,借主の方の相続人は,ご相談者様に家賃を支払う義務を負います。したがって,借主の方の相続人との間で,建物賃貸借契約の合意解約などの手続きを採らず,部屋を片付けることはできません。
なお,借主の方の相続人が複数いる場合は,遺産分割協議等で特定の相続人に賃借人の地位が引き継がれない限り,各相続人に認められる相続の割合に応じて,相続人全員に賃借人の地位が引き継がれます。
このように,借主の方の死亡によって建物賃貸借契約は解除されませんので,ご相談者様が建物賃貸借契約を解除して,新しい借主に部屋を貸すためには,借主の方の相続人との間で建物賃貸借契約を合意解約するか,借主の相続人全員を相手として,家賃の滞納を理由に建物の明渡しを求める裁判を起こすことが必要となります。
一方,借主の方に相続人がいない場合でも,ご相談者様は,裁判所が関与する手続きを経ずに,部屋を片付けることはできません。法律で定められた相続人がいない場合でも,借主の方は遺言によって借主の方のすべての権利を第三者に譲渡しているかもしれません。あるいは,借主の方には内縁関係にあるパートナーがいるなど,特別に借主の方の権利を相続することが認められる者がいる場合もあります。ですから,借主の方に法律で定められた相続人がいない場合でも,ご相談者様の一存で,部屋を片付けることはできないのです。
借主の方に相続人がいるかどうかわからない場合には,相続財産管理人という相続財産の管理を行うことができる者を,家庭裁判所で決めてもらうことができます。家庭裁判所が相続財産管理人を決めた場合には,ご相談者様は,借主の方の相続財産から,滞納されていた家賃を支払ってもらえたり,部屋を明け渡してもらうことになります。
このほか,「亡借主相続財産」を相手として,建物の明渡しを求める裁判を起こし,裁判所に対して,「亡借主相続財産」の特別代理人を決めてもらうという方法も考えられます。ただし,特別代理人による裁判を認めるかどうかは,裁判所に委ねられることになりますので,必ずしもこの手続きが利用できるわけではないことには注意が必要です。