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建物明け渡し請求コラム

賃料滞納を理由としたカギの変更は可能か(賃料滞納が発生した場合の注意点)

【相談】賃貸マンションの管理会社を経営していますが,ある借主の家賃滞納に悩んでいます。電話や請求書で何度も催促しているのですが,ほとんど電話に出ず,たまに連絡がついたときも,管理会社の対応がおかしいとか,クレームを繰り返すばかりで,話が一向に家賃の支払につながりません。部屋の賃貸借契約書には,「賃借人が賃料の支払を7日以上怠ったときは,賃貸人は,直ちに賃貸物件の施錠をすることができる。」と定められています。この借主も,さすがに鍵を取り替えられて部屋に入れなくなれば,家賃を支払わざるを得なくなると思います。この規定に基づいて,鍵を取り替えても問題ないでしょうか。

 

【回答】借主が賃料の支払を怠った場合に,賃貸物件を施錠することができるとする賃貸借契約の規定は,原則として,公序良俗(公共の秩序)に反する契約が無効であることを定めている民法90条に触れて無効です。そして,この原則として無効な規定に基づき,勝手に鍵を取り替えた場合,これによって借主が被った損害(慰謝料,借主による鍵の取り替え費用,弁護士費用等)を賠償しなければならなくなる可能性があります。

また,正当な権限がないのに他人の住居に侵入したとして,住居侵入罪などの刑事責任が問われる可能性もあります。

 

賃借人が家賃を滞納したことを理由に,賃貸管理会社や賃料債務保証会社が,鍵を取り替えることによって賃借人が賃貸物件に入れないようにして,家賃の支払を催促するケースが稀に見受けられます。しかし, 日本のように,人が権利を実現するための法制度が整備されている法治国家においては,権利の実現は,法というルールに基づいて,裁判所の手続を通じて行われなければなりません。国家ではなく,個々の人や会社などに権利の実現が委ねられると,結局は力の強い者が勝つことになり,社会の秩序・ルールが守られなくなってしまうからです。

このように,たとえ権利がある者であっても,義務のある者がその義務を果たさないからといって,自らの実力によって権利を実現しようとすること(自力救済といいます。)は,原則として違法となります。これを自力救済禁止の原則といいます。

本件でも,賃借人の同意なく鍵を取り換えれば,賃借人は部屋に入ることができなくなり,部屋を利用するという賃貸借契約の根幹を,賃貸人が裁判所の許可なく一方的・強制的に制限するわけですから,このような措置は自力救済にあたるものと考えられます。

なお,この自力救済禁止の原則には,例外があります。しかし,その例外は極めて限られたものです。自力救済が違法ではないといえるのは,①法が定める手続によったのでは,権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能であるか,又は著しく困難であると認められる緊急でやむを得ない特別の事情があり,かつ②必要な限度を超えないという,とても限られた状況でのみ認められます(最高裁昭和40年12月7日判決)。

本件では,①賃料の滞納に対しては,賃料の支払いを求める訴訟を起こして解決することが可能ですし,賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除して明渡しを求めることも,同様に訴訟による解決が可能です(なお,賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除するためには少なくとも数か月分の滞納があることが必要であり,「7日」程度では解除できません。)。また,賃借人の同意なく鍵を取り換えなければならないような緊急やむを得ない事情は見受けられません。ですから,②の要件を検討するまでもなく,自力救済禁止の原則の例外にあたらないことは明らかです。

よって,本件では,管理会社が,賃貸物件の施錠を認める規定に基づいて鍵を取り替えることは違法となり,賃借人に対する損害賠償責任が発生する可能性があります。また,正当な理由なく鍵の取り替えのために部屋を開錠して,部屋に立ち入れば,住居侵入罪などの刑事責任に問われるおそれもあります。

裁判所は,本件と類似のケースにおいて,管理会社とその代表取締役に対し,賃借人に対する慰謝料10万円や,賃借人による鍵の取り替え費用1万7850円,弁護士費用2万円,合計13万7850円の損害賠償を認めています(札幌地裁平成11年12月24日判決)。

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